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明王谷のイワナ、夕まずめの葛川

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明王谷のアマゴには相手にされなかったが、久しぶりに良型のイワナを釣った。夕まずめ時の葛川本流はアマゴの気配に満ち満ちていたが、塩焼きサイズはキープできずに帰った。

テンカラ釣りでは深場をスルーしてしまう

まだルアーでは渓魚を1尾も釣ったことがない。エサ釣りしかしてなかった20年以上前、テンカラ釣りに手を出した時も、最初の一尾が釣れるまでは「ホンマにこれで釣れるんか?」と半信半疑で、自信ないまま毛針を振り続けてた。

最初に、テンカラで釣れると確信できたのは、葛川水系の足尾谷だった。確か6月の梅雨の晴れ間、釣れたのは小さなアマゴ主体に、少しイワナ混じりだった。

釣れるとわかった後は、本当にテンカラで釣れるようになり、4.5mや5.4mの長竿もエサ釣り用の仕掛けも持参しなくなった。何よりも、仕掛けのコンパクトさが気に入ったし、自分で巻いた毛針に魚が飛び出すのが「当たり前」になったことで、確実に世界が変わった気がした。

しかし、毛バリだけに頼ってると今度は、深場や大場所に潜む大物を狙えなくなった。本当は、逆さ毛針を水中で泳がして「誘い」をかけるとか、重りを仕込んだニンフを沈ませるとか、深場の魚を引き出すやり方はあるのだが、中途半端にしか試したことがないから、上手く行った試しがない。

深場の魚を引き出すという成功体験がないものだから、結局は、深場や大場所に出くわすと、ほとんどスルーするようになってしまった。これはやはり、あまりにもったいない。

今日は、大場所に出たらルアーを試してみよう。しかし、これまで何回か試したけどもキャスティングがぜんぜんできてない。ピンポイントに正確に投入するどころか、とんでもない明後日の方向にルアーを飛ばしてしまうこともある。たぶん、キャスティングのフィニッシュ時に、ロッドの方向がふらついてるのだろうな。

今日こそはルアーでも釣ろうと、部屋でフェザリング(糸出しを人差し指で止める)とフリップキャストの練習を始めるとハマってしまった。それで、昼過ぎにゆっくりと家を出て湖西バイパスを西に向かった。カラッとしたド快晴。比良山側から葛川に流れ込む枝谷としては最大級の、明王谷に入ろうと思う。

比良山系の名溪、明王谷

武奈ヶ岳など1000mを超える自然林豊かな山々を源流とする明王谷は、真夏の渇水時でも安定した水量が流れている。軽く増水気味だった前回は、下流部の坊村の開けた流れからはアマゴがポンポン飛び出したが、三ノ滝より上流の核心部では、水勢が強すぎて釣り辛かった。

明王谷の段段瀬

しばらく雨が降ってないから、ちょっと水が減ってるかもしれない。今日あたり、明王谷の上流部で毛針を振るにはぴったりと思われた。

平(たいら)あたりで見えた葛川本流の流れは、渇水までは行ってないが、そこそこ減水していた。水が太い時は「流れの中に石が浮いてる」感じだが、今日は、「石の間に水が流れている感じ」に見える。ザラ瀬の流れはトルクが低そうだ。

明王谷の林道手前(通行止めの前)には2台車が止まっていた。別に根拠はないが、おそらく先行者ではないだろう。最近、渓流で先行者のプレッシャーを感じることがほとんどなくなった。自分自身も釣行の機会は減ってるが、渓流釣り人口そのものが、確実に減ってると思う。

白滝山登山口の別れまで、角ばった落石が転がる林道を20分ほど登る。この季節のよく晴れた日に山を歩くと、ロッテのガムみたいな人工甘味料っぽい、甘い香りがするが、何の樹が発してる匂いなんだろう。

三ノ滝への下降点を過ぎて、前回とほぼ同じ地点で、林道から斜面を下降して沢に出た。午後もまだ早目なので明るい日差しの中で釣りができると期待してたが、沢に降りるとけっこう薄暗かった。

両岸が深く切り立った明王谷で、のびのびと釣りをしたければ、もっと早めに入渓するべきだ。たぶん午前中なら、もう少し明るいんだろう。このような深い谷では、樹間から明るい陽光が差すぐらいでないと、自分はどうも気が滅入る。

リールを破損してルアー断念

前回、表層や流れ出し口で数尾の渓魚が流れるエサを追っていたプールに出た。流れはやや減ってるがやはり中央付近に1尾、そして流れ出し付近の岸壁沿いにも1〜2尾の、おそらくアマゴが表層近くに浮いていて、流れてくる何かに反応している。

赤金のスプーンを何度か投げるが、見切られたのか魚は散ってしまった。しかも、鈍臭いことに対岸の流木にルアーを引っ掛けてしまった。

対岸に渡り、引っ掛けたルアーを回収しようと大岩に足を乗せたら、その岩には腐葉土がうっすら積もっており、足をすべらせかけた。慌てて手でロッドを押さえ込み、リールのハンドルを破損してしまった。

やむなく、その後はテンカラに専念。

5月22日の釣行と比べると、葛川本流は明らかに減水して見えたが、明王谷の水量ははそれほど変化がない。上流で分岐する奥の深谷、口の深谷、白滝谷いずれの源流域も広葉樹林が豊かで、雨不足の影響を受けにくいからに違いない。

明王谷のイワナ

前回よりも軽く減水してる分、渡渉は楽になり、ポイントも狙いやすくなっている。しかし、バシャっと水面に出るような反応はまったくない。何度か、スッと近づいたアマゴが毛針を見切って方向転換するのを見た。

口の深谷が合流する地点にかかる橋のすぐ上流にある滝は、これだけ晴ているにもかかわらず、陰鬱に薄暗かった。滝本体の横を直登できるほどの、それほど危険性もない低い滝だが、どうしても突破する気になれない。いったん林道に出て滝をやり過ごしてから、上流に回り込んで沢に降りた。

杉林の中には、何年も前にキャンプした人が残したのだろう、一升瓶が転がってる。林道突き当たりのこのあたり(牛コバ)は、武奈ヶ岳登山や、比良山縦走の拠点でもあり、自分も2度ほどテントを張ったことがある。林道は昔に比べると荒れたみたいだが、この一帯には古くて懐かしい山歩きの空気が漂っている。

暗い滝の上流は、やや谷が開けて、釣りやすくなる。かつて、餌釣りでイワナを釣った記憶がある。

プールというほど広くも深くもないゆるい流れに5〜6尾の渓魚が泳いでいた。ほぼ止水状態の岩陰には、24〜25センチの魚が逃げ込んだが、たぶんイワナだろう。

日陰の岩から、じっくり見釣りで狙ってみた。流れの中に定位してるのは、20センチを切るような、おそらくアマゴが数尾。1〜2尾は真っ黒に見えたが、隠れ家から出てきたばかりのイワナかもしれない。

ドライ毛針は鼻先で見切られた。ソフトハックルのフライ(パートリッジ&オレンジ)を試す。ハックルがヒラヒラする感じが、水中を泳ぐ昆虫に見えるはずだが、うす暗くて水中の毛針が見えない。1尾、アマゴが追いかけてきたようにも見える。しかし、毛針自体を視認できないため、どうしても集中力を保てない。いつの間にか、見えていた魚も散ってしまった気がして、その場を諦める。

明王谷のチビアマゴ

小さな瀬が複雑な段差を成して入り組んだ「ザ・渓流」という感じの流れが続くようになると、ようやく、狙ったポイントから魚が飛び出すようになった。

水はキンキンに澄み切って、川底には色とりどりの玉石が散らばった明王谷。その美しい流れの中から、サイズは小さいもののヒレがピンピンの綺麗なアマゴをようやく手にすることができた。

やっと調子が出てきたと思ったところで、投げた毛針をピックアップすると、16〜17センチのアマゴとは明らかに違った重たい引き。段々瀬の岩陰で毛針をくわえたのだろう、23センチのイワナが釣れた。

その上流にある小さなプールでは、中層に数尾のアマゴが浮遊していた。しかしドライ毛針を流しても、スッと寄ってくるだけで鼻先で見切られた。オモリを仕込んだピューパを、エサ釣りのごとく目印つけて投入するが、何も起こらない。毛針を深く沈ませて釣る方法が、どうもまだわからない。

5時を回ったので、釣りを切り上げて竿を縮めた。唯一の釣果となったイワナの腹を裂いて血合とエラと心臓を取り除いてから、林道に出て坊村に向かった。

谷寄りのカーブに近づくたびに、はるか下から谷の瀬音が響いてくる。坊村から三ノ滝までの間の明王谷は、深く切り立った岸壁の間を流れている。ロープなしには遡行が難しい、深く険しい谷だ。

15分かけて、坊村に到着した。西日がきつくて釣りにならない時間帯は、こうして次の釣り場への移動に当てるのがいい。

夕まずめ、アマゴの気配は濃かったが

夕まづめ時の締めくくりは中村小学校〜中村大橋の間の本流を釣り登ろうと、中村大橋の喫茶店横に車を止める。この喫茶店は荒れた様子はないが、ずっと休業中なのだろうか。

旧道を下流に戻ってくると、橋の下流のプールにフライフィッシャーの姿を発見した。近寄って挨拶すると、ここで切り上げるとのことだった。

もう少し下流から釣り登るつもりだったが、残り時間30分ほどしかないから、この辺りからでちょうどいい。フライの釣り人がいるプールから、少し距離をとった上流で川に降りた。

リリースする時、石の間に頭を突っ込んでしまったチビアマゴ

この時間帯になると、少々の減水であっても、気にせず川に立ち込める。夕まづめの毛針釣りには、太い水がたっぷりと流れているよりも、やや減水気味ぐらいの方がいい。カジカガエルの声がやかましく響きわたるぐらいの、ちょっとしょぼい流れの方が安心する。

ゆるい流れでライズがあったので流すと、丸々太ったカワムツが食った。

前回来た時よりもライズが多く、アマゴが釣れる気配は満ちていた。浅いけどトルクのある瀬からは確かな反応があって、16〜17cmほどのアマゴを続けて3尾釣った。

毛針が見えなくなるまで粘ったが、結局、20センチを超えるサイズは釣れなかった。

この日は明王谷で釣った23センチのイワナ1尾だけ持ち帰って、塩焼きでいただいた。